米塚火山(こめづかかざん)
標高: 約984 m
火山のタイプ: スコリア円丘(単成火山)
噴火時期: 約3,300年前(縄文時代後期に相当)
米塚火山は、まるで完璧なプリンのような美しい曲線を描くスコリア円丘で、その頂上部には小さな火口が存在します。かつては草スキーなどが行われていましたが、侵食や環境保全の観点から現在は立ち入りが制限されています。
形成史
米塚は、阿蘇火山群に属する単成火山であり、約3,300年前の噴火活動によって形成されたと考えられています。この時期は大規模火山活動からすると比較的新しい部類に入り、火口から放出された多孔質なスコリアが積もって山体を築きました。
なお、米塚火山から噴出した溶岩は玄武岩質安山岩とされています。一般的に、ハワイなどで知られるパホイホイ溶岩は主に玄武岩質(SiO2含有量が低く流動性が非常に高い)であることが多いですが、阿蘇地域のような玄武岩質安山岩でも、流動条件によってはパホイホイ様のなめらかな表面を形成する場合があります。この点は学術的にはやや珍しい事例であり、溶岩の組成や冷却・流動条件が多様であることを示唆しています。
溶岩流と溶岩トンネル
スコリア噴出以前、火山底辺付近に開いた別の火孔から溶岩が流出し、パホイホイ状の表面構造を示す溶岩が山体裾野部を覆いました。この流動過程で形成された溶岩流内部には溶岩トンネル(lava tube)が形成されることがあります。これは、表面が先に冷却・固化して天井や壁を形成し、その内側を高温流体状の溶岩が抜けることで空洞が生じる現象です。
米塚周辺にも溶岩トンネルが多数存在するとされていますが、自然保護や安全上の理由から、一般には開放されていません。
地形利用と景観
流れ出した溶岩は国道57号線付近まで達しており、溶岩流が作った微地形はゴルフ場や別荘地などに利用されています。地学的視点からすれば興味深いプロセスの痕跡ですが、日常生活においてその成因は必ずしも大きな関心を呼びません。もっとも、地学的感性を持つ人々にとっては、この溶岩地形は地球内部活動の芸術とも言え、極めて魅力的な存在です。
パホイホイ溶岩とアア溶岩の逸話
パホイホイ溶岩 (pahoehoe lava):ハワイ語で「滑らか」という意味を持ち、その名の通り表面がロープ状で平滑、靴底で踏んでも比較的ダメージが少ない溶岩表面を指します。
アア溶岩 (aa lava):同じくハワイ語由来で、角張ったガサガサの表面を持つ溶岩を示します。一般にパホイホイより粘性がやや高く、温度が低くなった状態で流れるため、表面が荒く固まります。よく言われる「踏んだら“アァ”痛い!」と叫びたくなるからアア溶岩、という語源説はジョーク混じりの有名小話です。実際には「アア」という語はハワイ語で「燃え殻」「荒い」を意味するとされ、痛がる擬音語ではありませんが、この冗談めいたエピソードは一般の方に溶岩種別を覚えてもらう際にしばしば引用されます。
ユニークな小話:
火山学者の集まりでは、「アア溶岩がパホイホイ溶岩になる条件」を議論することがあります。溶岩の粘性や温度、流速、地形傾斜など複雑な要因が絡み合い、同じ組成でも最終的な表面形態が決まります。この研究は、火山噴火のシミュレーションや惑星地質学(火星や月の溶岩流跡の解析)にも応用可能です。つまり、阿蘇の小さな火山地形を理解することが、火星表面の溶岩層形成過程を紐解くヒントにもなり得るという、スケールを超えた学術的ロマンが存在します。
まとめ
米塚火山は約3,300年前の小規模な噴火で形成されたスコリア円丘であり、その周辺にはパホイホイ状の溶岩流や溶岩トンネルがみられます。溶岩の組成や流動条件を正確に理解することで、地質学・火山学の知見を深めることができます。火山地形は単なる「見た目の面白さ」だけでなく、惑星科学や防災、資源探査にも役立つ学際的研究領域であり、その点で米塚火山は地学的好奇心をくすぐる格好の教材と言えるでしょう。