赤井火山
「しょぼい」と呼ぶには惜しい、小さな火山遺構が語る壮大な地下の物語。
概要
標高:約33 m
「火山」と呼ぶには低すぎる?いえいえ、標高は確かにわずか33メートルほどのささやかな小丘ですが、地質学的には立派な火山活動の証拠なのです。
その噴火時期は、阿蘇カルデラを形成した大規模噴火系列(いわゆるASO-1、ASO-2と呼ばれるサイクル)の間にあたります。具体的には、ASO-1(約26万年前)とASO-2(約14万年前)の間、約15万年前と推定されます。これは、巨大カルデラ噴火のビッグイベントに挟まれた「中継地点的」な時代に、この小火山がささやかな声を上げたことを意味します。
成因と側火山的性質
赤井火山は阿蘇中央火口丘群が繰り返し噴出した溶岩(玄武岩~安山岩系)と類似した化学組成を持つことが指摘されています。
そのため、一部の地質学的研究では阿蘇火山の「側火山(寄生火山)」とみなされることもあります。
「側火山」とは、巨大な火山本体から離れた場所で噴出した、小規模な噴気孔やスコリア丘のことを指します。主火口から派生したいわば「小さな子分」といったところです。
スコリア丘と遺跡的景観
現在、赤井火山は一見すると「ただの小山」あるいは「古い遺跡」のようにも見えるスコリア丘です。スコリアとは、マグマが発泡して固まった多孔質の火山砕屑物で、パンの気泡のような無数の穴が特徴です。
山頂には神社が鎮座し、かつては「赤井城」として利用された歴史もあります。地質学的には若々しい火山噴出物であっても、人間の歴史スケールでは十分に「古代」扱いされる、そんな「時空の錯覚」を味わえる場所でもあります。
砥川溶岩と熊本の水源
赤井火山には「砥川(とがわ)溶岩」と呼ばれる多孔質な溶岩流が関係しています。この溶岩層は巨大な天然ろ過装置、あるいは地下の「水のバケツ」として機能しています。
スコリアや多孔質溶岩は、小さな孔隙(空隙)が無数にあり、そこに地下水が蓄えられます。このため、砥川溶岩は地下水涵養に非常に重要で、熊本市の水道水は、平均深度約70mほどの地下にあるこの溶岩層からの湧水に頼っています。
実は、熊本市は人口70万を超える都市でありながら、ほぼ100%を地下水でまかなう珍しい大都市です。その地下水の供給源のひとつが、このような阿蘇火山由来の多孔質溶岩。地形的にも低く目立たない赤井火山ですが、その地下には、熊本の都市生活を潤す豊かな水が脈々と流れているのです。
学術的な価値とユニークさ
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地質学的ユニークさ:
赤井火山は、巨大な阿蘇カルデラ火山体系におけるサテライト的存在。巨大噴火期の狭間で、小規模な噴出を行った火山として、地質学的な時間軸を埋める一端を担っています。 -
歴史・文化との融合:
山頂神社や城趾という人間活動の痕跡は、地球内部の激動と地表面での人間の営みが交差する特異なランドマークとなっています。 -
水資源学的貢献:
砥川溶岩は、地下水涵養とろ過機構を自然に行い、熊本市の水資源確保に貢献。巨大カルデラ火山の副産物ともいえるスコリア層が、近代都市を支える水瓶となっている事実は、火山学と水文学を結ぶ興味深い例です。
スコリア丘と隣接する古い火口
スコリア丘のすぐ横には、かつてここが火山活動の舞台だったことを示す古い火口跡が存在します。今、こののどかな田園風景の中から突然「新たな火口がこんにちは」してきたら、人々はただ驚くだけでなく、相当なパニックに陥ることでしょう。さすがに「びっくり」程度では済みません。
とはいえ、ご安心ください。赤井火山のような小規模な火山は、多くが一度の噴火活動で寿命を終える「単成火山(monogenetic volcano)」と呼ばれるタイプに属します。一期一会の大噴火によってスコリア丘を形成し、その後は永らく沈黙を守るのが彼らの運命。そのため、現代になって再び噴煙を上げ、田んぼから火口が出現する可能性は、ほぼゼロに等しいのです。
このような単成火山は、地球科学的タイムスケールで見ると非常に短命な「花火」のような存在。一度華々しく火山花火を打ち上げたあと、再点火することはめったにありません。火山学的知見に基づいた「安心保証付き」の光景が、現在の静寂な田園地帯といえるでしょう。