高野尾羽根火山 (たかのおばねかざん)
「何その山?」と思われる方も多いかもしれませんが、阿蘇火山の地質史を語る上で欠かせない重要な溶岩ドームがこの山です。
約5万年前に活動し、その溶岩流は広範囲にわたって地形を形作りました。今もその痕跡が見られる影の名脇役的存在です。
高野尾羽根火山の特徴
高野尾羽根火山は、約5万年前に形成された溶岩ドームです。
この火山は粘性が高いマグマ(玄武岩質安山岩)を噴出し、なだらかに盛り上がった山体を形成しました。粘性の高いマグマは、流動性が低いため大きな広がりを見せず、山頂付近にドーム状の地形を作ることが特徴です。
現在、この山の山頂には京都大学火山研究所があります。この施設は、火山活動の観測・研究の拠点となっており、「あの小さな山の上にある建物」として地元では知られています。
溶岩流の広がり
高野尾羽根火山から噴出した溶岩流は、北は「数鹿流ヶ滝(すがるがたき)」付近まで、南は「東急ゴルフ場」を越えて南阿蘇の「草千里浜栃ノ木線」に達する広範囲に及んでいます。この溶岩流が形成した台地や斜面は、現在の道路地形にも影響を与えています。
例えば、国道299号線を草千里側へ登る際、道路右側の地形が低くなっているのは、この道が溶岩流の端に位置しているためです。溶岩流が作り出した自然の地形が、現代の道路設計にも反映されているというわけです。
科学的補足:溶岩流と地形の成り立ち
高野尾羽根火山の溶岩流は、玄武岩質安山岩というやや粘性の高い組成を持っています。このタイプの溶岩は、高温であればパホイホイ溶岩のように滑らかに広がりますが、冷却が進むと流れが遅くなり、複雑な地形を残します。
溶岩流が冷却する際、流れの端や表面が固まり始め、内部はまだ流動性を保って動き続けます。このプロセスは、時として溶岩トンネルや断面に見られる複雑な冷却模様を形成します。高野尾羽根火山からの溶岩流は、こうした地質学的特徴を観察するのに最適な教材とも言えます。
ユニークな小話:火山研究所とその役割
京都大学火山研究所が高野尾羽根火山に設置された理由は、その立地の特殊性にあります。この火山は阿蘇カルデラ内部に位置し、周辺の火山活動を直接観測できるだけでなく、火山噴火後の地形変化やマグマの冷却プロセスを詳細に調べることができます。
さらに、この研究所は「静かな山の上にある」という環境が整っているため、微細な地殻変動や地下の熱流を検出するための高精度な機器が設置されています。この地で収集されたデータは、阿蘇火山だけでなく、世界中の火山研究に役立てられています。
地質学的意義
高野尾羽根火山は、阿蘇カルデラ形成(ASO-4)後の火山活動の一環として形成されました。その活動は阿蘇火山の内部構造やマグマ供給系の変遷を明らかにする重要な手がかりとなっています。
また、この溶岩流が広がった範囲は、土地利用や地形形成に大きな影響を与えており、現在もその痕跡がゴルフ場や道路沿いに見られます。この火山の存在は、地元の景観だけでなく、地質学的な知識の発展にも寄与しています。
まとめ
高野尾羽根火山は、目立たない存在ながら、阿蘇火山群の中で重要な役割を果たしている溶岩ドームです。約5万年前の火山活動で形成された溶岩流は、現在の地形や道路設計にも影響を与え、地域の風景や文化の一部として息づいています。
次にこの地域を訪れる際は、溶岩流が形作った地形や研究所の存在を思い出し、火山の活動がいかに私たちの生活に影響を及ぼしているかを想像してみてください。その地形には、地球の壮大な物語が刻まれています。