上米塚火山 (かみこめづかかざん)
「そんな火山あるの?」と思う方がほとんどかもしれませんが、確かに存在します。そして、現在その一部は人間の手で「カット」され、火山の断面が見えるというユニークな状態になっています。
上米塚火山とは?
上米塚火山は、阿蘇火山の火口丘の一つで、約3,000年前に活動して形成されたと考えられています。その規模は米塚火山(こめづかかざん)に近いスコリア丘で、火口は山頂から左側に開いていたとされています。
しかし、その後、県道298号線を建設する際に山体が大規模に削られ、現在では火山断面を見ることができる貴重な「カット火山」として知られています。
火山断面の特徴
上米塚火山の断面では、赤褐色の土壌が目立ちます。
これはスコリア噴出物が含む鉄分が、高温下で酸化して「二化鉄(酸化第二鉄、Fe₂O₃)」となり、赤く変色したものです。この現象は火山活動の高温環境を物語るもので、火山学的には火山ガスやマグマの化学組成を推定する重要な手がかりとなります。
断面を観察できる場所は珍しく、火山活動がどのように進行したか、そして火山灰やスコリアがどのように堆積して山体を形成したかを、視覚的に理解できる貴重なフィールドとなっています。
人為的な「造山活動」
上米塚火山は、約3,000年前に自然の造山活動によって形成されました。しかし、現代における「造山活動」は人間の手によるものでした。県道298号線の建設時、山体が道の整備に邪魔となったため、火口ごと削り取られる結果となりました。
こうしたカットによって、上米塚火山の内部構造が露わになり、火山の成り立ちを直接観察できるフィールドが誕生したのは、火山学的には皮肉な幸運といえるかもしれません。
ユニークな小話:断面を観察できる幸運
火山の断面を見るには、通常、大規模な地滑りや侵食、または地質調査のための掘削が必要です。しかし、上米塚火山では、道路建設の副産物として火山の断面が自然に近い形で露出しています。
地質学者にとっては、「ここを通るたびに、カットされた火山を見る機会が得られるなんてラッキー!」と感じる場所でしょう。観光目的で訪れる人にとっても、「スコリアが赤く酸化している理由」などを学びながら観察できる、学術的にも興味深いスポットとなっています。
地質学的意義
上米塚火山は、阿蘇火山地域の後期活動の一環として形成されたスコリア丘です。その断面が見える現在の状態は、火山の成長過程や噴火様式を直接知る手がかりを提供します。
主な地質学的意義:
- スコリア噴出の記録:
火山断面から、スコリアの層や噴火時の堆積物の状態が確認できる。 - 鉄分の酸化現象:
スコリアに含まれる鉄分が酸化して赤く変色しており、火山ガスの影響を推測する材料となる。 - 火山活動の影響と人間活動:
道路建設という現代の活動が火山の一部を削ったことで、逆に地質学的な観察対象が増えたというユニークな例。
まとめ
上米塚火山は、阿蘇火山群の中でも非常にユニークな存在です。その成り立ちそのものよりも、「断面がカットされた」という人為的な影響によって地質学的な観察スポットとして注目されています。
次回、県道298号線を通る際には、火山断面に目を向け、3,000年前にこの山がどのように形成され、その後どのように人間の手で形を変えられてきたかを想像してみてください。その赤褐色の層が語るのは、自然の力と人間の活動が交錯する物語です。